僕に彼女がいないわけ
バチンっ。ボクの腕を蚊が差した。もう一度、せーのーバチン!蚊は緩やかなカーブを描いてボクの視界から消えた。
僕に彼女がいないわけ
桃。か?あれは桃か?僕はパソコンの前に座る。横目でキッチンレンジの上にある桃を凝視する。手に取り、眺める。少し柔わめに熟したプリンとした桃。熟しているのにプリンとしているとは、何と卑猥な桃なのだ。僕は桃にすぐにでもカブり突きたい衝動を抑えた。狭い六畳間のムンとした湿気と埃で穢れてしまっている。よし!重い腰を上げて洗面台に立つ。桃を水で濡らす。優しく濡らす。汚れを洗い流す。水気を帯びた桃を鏡に反射させる。温白色が桃のジュクジュクを際立てる。僕は舌を這わせた。ザラっとした産毛のいやらしい感覚が舌を通して伝わってくる。バグッ、じゅるじゅる。じゅばばばっば。なんて水気の多い桃なんだ。僕は辛抱たまらんくらいにむしゃぶりついた。甘い。かぁーアマイ。熟しすぎているのだ。果物は腐りかけが一番うまい。パツンパツンに張った薄皮が破れる。滴り落ちる果汁。「おっと」慌てて左手で唇を抑える。僕はもう一度、桃汁を吸った。チュウー、じゅぼぼぼ。ああ、うんまい。
僕には彼女と呼べる特別な女はいない。今日は桃が僕の彼女になってくれた。僕はどうしようもない寂しさを埋めるように桃をナメまわした。好きだ好きだ好きだ。陶酔した。気がつくと手も顔も果汁でびちょちょに濡れていた。あああ、またやってしまった。冷静になり腕を見ると蚊が止まっていた。蚊はメスしか人間の血を吸わない。だったら蚊のオスは何を吸っているのだろうか?調べると、子どもを産むためにメスは血を吸うとある。だったら、僕は子どもを作るために桃を吸っているのではないか?腕に止まったメスの蚊を見て思う。もっと吸っていいんだよ。女であればパンティを履き替えるところだ。少し乾いてカピカピになった手と口元をキレイに洗い流す。ずびゅびゅびゅびゅうーー。上階からトイレを流す音が聞えた。こんな壁の薄い家では喘ぎ声も満足に出せない。女がもしも僕の部屋に来たならきっとこう言うだろう。「こんなの丸聞こえじゃない!私は構わないけどあなたは大丈夫なの?」ってね。僕はそんなくだらない事を考えながら、もぎたて!まるごと搾り巨峰チューハイを飲んでいる。
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諦めたらそこで試合終了だ。頑張れ👍
はい!頑張ります!