あなたはビニ本を見たことがあるか
私が初めてビニ本に出会ったとき、そいつはローサイドにある自動販売機のガラス窓の中にいた。私が中学生のころだった。小遣いを貯め、一冊千円もする本をじっくり選ぶ余裕もなく、周囲に誰もいないことを確認しながら一瞬でジャッジメントする。思うに私の決断力の素早さは、ビニ本によって鍛えられたといっても過言ではない。今では居酒屋のメニューを見て、3秒以内に注文をジャッジできるまでになった。枝豆、やっこ、刺身にお新香、定番のメニューからローカルまで、メニューを開いて一瞬で決める。これらはすべて、ビニ本を選ぶときからの訓練の賜物なのだ。
ビニ本を買う決意
ビニ本とは、ビニール袋に包まれたエロ本のことだ。コンビニで売っているエロ本とは、ちと毛色の違うエロ本だ。当時の私は中学生。小遣いを3ヵ月貯めて一冊千円の本を買った。最近、貯金のできない人が増えている。言っちゃなんだが、私は貯金が得意だ。なぜ得意になったのか?それはビニ本を買うために、それこそ一心にひたすら金を貯めた。当時は確か、一か月の小遣いが1500円だった。一か月1500円に対して1000円といえば、サラリーマンなら給料の三分のニに当たる金額だ。月給30万円なら20万円を一気に使う計算になる。 こう考えると一冊買うのにどれほどの気合と決意がいったのか、わかってもらえるだろう。
ビニ本を買って後悔すること
ビニ本はほとんど詐欺だ。何が詐欺なのかっていうと、表紙と数ページだけがカラーで、あとは全部白黒の文字ばっかりだからだ。私は何度も同じ手口で騙された経験がある。今度こそと思って買っても、また白黒の文字だらけ。中学生の私は文字では興奮できない。女性の裸体が見たいのだ。しかし無情にも、裸は少なく、まったく抜けないのだ。私は3冊ほど買って、やっと自分の愚かさに気づいた。これは詐欺なのだと。
ビニ本に学んだこと
何でも元を取ろうとするのが人情だ。私はビニ本の文字をくまなく読んだ。つまんなくても理解不能でも、読んだ。持ち前のもったいない精神を発揮して。せっかく高い金を出して買ったんだから、ちゃんと読まな損だ。そう自分に言い聞かせながら。するとどうだろう。あとで思い返せば、驚くことにいつの間にか、私は小説好きの読書好きになっていたのだ。ビニ本を買って、後悔して、でもせっかくだからと文章を読んだ。このことがきっかけで国語や歴史。ありとあらゆる文章が好きになった。今ではブログを毎日2つも書くまでに成長した。禍を転じて福と為すとは、まさにこのことだ。
まとめ
今のティーンエイジャーはビニ本を知らない。コンビニにもその内、エロ本は一切なくなるだろう。エロは動画で観る時代。それもいいだろう。しかし私はビニ本に騙され、落胆し、絶望したことによって、お金を貯めることや、活字を読むことや、人を騙すことはいけないことだということを学んだのだ。さらば愛しきビニ本よ。そしてありがとう。私はセーラー服姿の少女が股を開き、白いパンツを見せていた光景を忘れはしないだろう。何の因果か、私はその頃からセーラー服の少女が嫌いになってしまった。ビニ本への失望をそのまま投影したかのように。今の街は私が住むには少々潔癖すぎるのだ。
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